220426 ランダム
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椿荘日記

椿荘日記

天は二物を・・?

ここ暫くは、余りお天気が好くありません。
先週の木曜と金曜日に、マリの日本画の先生が、この「椿荘」のお庭に咲き始めた、白い芍薬を写生しにいらっしゃいまして、雨の中、パラソルを広げ、その下で、熱心にずっと鉛筆(実はシャープペンシルですけれど)を動かされておりました。初夏を思わせる、暑いくらいの日が続いた後の、肌寒さが見に凍みるような一日でしたので、軟弱な弟子のマリは、家の中からそのご様子を、唯心配気に見守る外はありませんでしたけれど、この様な時の「師」の熱心さと申しましょうか、プロフェッショナル精神にはつくづく頭の下がる思いです。「描き始めると止まらない」と仰られる先生は、それはご自身にとっては、当たり前で普通のことかもしれませんが、ごく普通に絵を齧った程度のマリに取りましては、驚嘆以上のものです。
お若い頃、一年間南米を、文字通り一周し、それぞれの土地の美しくも特徴ある風景を、くまなく写生していらした先生の、当時の写生帳を見せて頂いたことがありますけれど、それは素晴らしく、弟子入りした直後に、植物の写生帳を見せて頂いた時と同じく、目を見張ってしまいました。
技術的なことは勿論ですが、観察眼と、集中度が違うのでしょう。記録と練習の為の作業なのですけれど、その絵画としての完成度に、思わずため息が漏れてしまいました。この様に書きますと、先生は如何にも、専門以外は「?」な、方に思われてしまい勝ちですが、本当の才能に恵まれた方に相応しく、先生はそうではないのです。

以前の日記でも触れたことがありましたけれど、先生はラテン系の音楽、特にブラジル音楽のパーカッションの達人で、まだ大学生の時分に、当時はまだ珍しかったサンバのパーカッションに興味をお持ちになられ、今では大団体となった、学生主体のチームの創始者のお一人でもあるのです。
今は、やはり同じく音楽好きな夫と、小編成のボサノヴァバンドを組んでいられますし、やはり小規模なサンバのグループの音楽の指導者をお勤めになっていらっしゃいます。
昨日はその練習が自宅でありまして、午前中は、茅ヶ崎の湘南祭で、例年通り、活動資金の調達の為の、焼きそばの屋台を、お仲間と共に開いていた議員氏の、「働き振り」を見に(今年は、全く手伝わず、お客様として踏ん反り返って(笑)おりましたので)先生と共に伺い、午後には急いで先生をお連れして、家に戻りました。
実は6月に、マリが何時も訪れる、「女王様のカフェ」のマダムの依頼で、ライブ演奏をすることになりまして、それを睨んでの練習だったのでした。メンバーは、ギターとヴォーカルのお若い女性と、フルート(この方も、お若い女性の方です)、ウッドベース担当の夫、そしてパーカッションとヴォーカルの先生という顔ぶれです。そう、先生は、パーカッションだけでなく、ヴォーカルもお出来になるのでした。
難しいポルトガル語の発音も慣れていらして、お綺麗ですし、声量こそ余りありませんが、優しくソフトな声は、ボサノヴァに相応しく、昨年の、江ノ島のライブハウスの演奏では、中々の評判でした。
今回のライブでは、女性ヴォーカルとのデュエットで、二曲、有名な「イパネマの娘」とオリジナル曲をやることになっておりまして、何時もは照れ屋の先生ですが、ライブ演奏には慣れておいでですので、臆することの無い、素敵な歌い振りに、弟子のマリも思わずうっとりと(笑)してしまいます。

世間で度々口にされる、「天は二物を与えず」という言葉がありますけれど、先生を見ておりますと、決してそうではないことを、つくづく感じてしまいます。
優れた能力、特に芸術の才能は、きっと同じ所から来るのでしょうか。お料理もお得意ですし、ハーブなど植物の栽培もお上手で、身の回りのことは何でも、しかも、申し分のない出来栄えですので、これでは奥様は必要ないかもしれないと、そのお仕事振りを見るに付け、マリはふと思ってしまいます(苦笑)。お淋しくはないのですかと、以前不躾にも、そんな質問をしてしまったマリに、先生は「そうだな、また猫でも飼うか(先生は以前、雄のヨーロピアン・ショートヘアを飼っていらして、それは可愛がっておいででした。)」とお気を悪くした風も無く、笑って仰ったことがありました。やはり、精神的にもお強いのでしょう。
容姿も素敵ですし、憧れている女性も少なからずおりますのに、いつも恬淡とされていらっしゃられては、「お節介」をやこうと思っているマリに、取り付く島はありません(最近では、少々諦め加減ですけれど~苦笑)。
このように様々な才能に恵まれている先生ですけれど、残念ながらやはり弱点はおありで、それはお体が余りお丈夫ではないことなのです。

ご幼少の頃は喘息で苦しまれ(茅ヶ崎へは転地療養の為に、横浜から越されてきたそうです)、今は日本画家の職業病とも言い得る、腸捻転を持病としてお持ちで(マリが弟子入りをしてからも、何度も発作を起こされ、その度に本当に恐ろしい思いを致しました)、いつもマリや家族を心配させております。
そう、常に一緒におりますので、何か楽しい関係(?)を想像される方も、少なからずいらっしゃる様ですけれど、マリにとって先生は、素晴らしい師であり、プライベートでは、優しく信頼できる「兄」のような存在で、何時もお幸せで満足されて暮らして下さればと、思って止みません。
昨年、マリと先生が、演劇に関わっておりました時分、子役のお嬢さん達に、師弟の余りの仲の良さ(?)に、大胆な質問をされまして(笑)、「師弟の絆は、時には夫婦よりも強いことがあるのよ」と答えますと、怪訝な顔をされましたが、それは真実の気持ちです。
本当に有難い事に、夫も息子も、マリの気持ちや考えをよく理解してくれておりまして、それはひとえに、先生の優れたご人格と才能に寄るものでしょうね。

今も先生は、お庭先で、小雨のそぼ降る中、一心不乱に芍薬の写生をしていらっしゃいます。
そのお背中を眺めながら、良き師に巡り合った幸福を思うのでした。



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